町の
中で、かごからひばりを
出して、みんなに
見せながら、あめを
売る
男がありました。その
男を
見ると、あそんでいる
子供たちは、
「ひばりのおじさんだ。」と、いって、そばへよってきました。
あき
地になっている、すこしのひろばへ、かたから、あめの
箱と、
下げているかごを
下ろしました。
「さあ、お
坊ちゃんも、おじょうちゃんも、あめを
買ってください。ひばりをはなして
見せますよ。」と、
男は、こしをおろしながら、
子供たちの
顔をながめました。だいぶあめが
売れると、
男は、かごのふたをあけて、
「さあ、とべよ。」と、いわぬばかりに、
片手を
上げて、
後さがりをしました。
ひばりは、やがて、ピイチク、ピイチク、なきながら、
高く、
高く、
空へ
上がりました。そして、このまま、どこへかとんでいってしまいそうに、
見えなくなったが、そのうちおじさんが、ピイ、ピイ、
笛を
鳴らすと、けんとうを、あやまらずに、えんとつや、たてものの
間を
分けて、すぐ
近くへ
下りて、またかごの
中へ
入ってしまいました。
おじさんは
笑いながら、「
私のいのちより、
大事にしていますよ。」と、いつもいうのでした。
ある
日、おじさんは、いつもの
場所へきて、
年ちゃんや、
義ちゃんや、とめ
子さんのいる
前で、ひばりをかごからはなしたのでした。
ピイチク、ピイチク、となきながら、いつものように、ひばりは、
空へ
高く、
高く、
上がっていきました。
このとき、
人間の
耳には
入らなかったけれど、はるかかなたの
空で、ピイチク、ピイチクとなき
声がしたのであります。
「はてな、どこかしらん。」と、ひばりは、
思いました。それで、いっそう
声をはり
上げたけれど、むこうの
声は、すこしも
近よるようすがなかったのです。
「いってみよう。」と、ひばりは、その
声のする
方へ、とんでいきました。
青い、
青い、
野原の
上で、二
羽のひばりが、たのしそうに、とんでいるのです。
「やっぱり、
野原はいいですね。」と、かごのひばりが、いいました。
「
町も、にぎやかで、いいでしょうね。」
「
私が、よんだとき、なぜこなかったのですか。」
「かわいい
子供が、あの
黄色くなりかけた
麦のはたけにいますので、
私たちは、
心配で、どこへもいくことができないのですよ。」と、
野のひばりが、こたえました。
日がくれかかると、
野のひばりは、
麦ばたけの
巣の
中へ
帰りました。そこには、かわいい
子ひばりが、お
母さんや、お
父さんの
帰るのを
待っていました。ひとり
取りのこされたかごのひばりは、
「ああ、やはり
私は、かごの
中へかえろう。」と、
町の
方へとんできました。おじさんは、ひばりがいなくなったので、
気を、もんでいました。
そのとき、ピイチク、ピイチク、ひばりの
声がしました。おじさんは、よろこんで、ピイ、ビイ、
笛をふきました。ひばりは、だんだん
地上へちかづくと、じっと
自分を
見上げているおじさんの
顔と、
年ちゃんや、
義ちゃん、とめ
子さんたちのかわいらしい
顔を
見たのであります。