赤ちゃんは、お
母さんのお
乳にすがりついて、うまそうに、のんでいました。
それをさもうらやましそうにして、五つになったお
兄さんと、七つになったお
姉さんとがながめていました。
兄さんは、ついに
我慢がしきれなくなったとみえて、お
母さんのお
乳に、
小さな
手をかけようとしました。すると、
赤ちゃんは、
顔を
真っ
赤にして、かわいらしい
頭をふって、さわってはいけないといって
怒りました。
「よし、よし、お
兄さん、おっぱいにさわってはいけませんよ。これは、
赤ちゃんのお
乳ですから。」と、お
母さんは、
笑いながらいわれました。
お
姉さんも、またお
兄さんも、
笑いましたが、お
兄さんは、なんとなくさびしそうでした。そして、お
母さんに
向かって、
「お
母さん、
赤ちゃんは、いじわるですねえ。」といいました。
「
坊やも、
赤ちゃんの
時分は、やはりおなじだったのだよ。」
「お
母さん、
僕もこんなに、いじわるだったの?」
「
赤ちゃんが
生まれるまでは、
坊やが、
毎日こうして、
母さんのおっぱいにぶらさがっていたの。そしてお
姉ちゃんが
手を
出そうものなら、やはり、こうして
顔を
真っ
赤にして
怒ったの
······。このお
乳のまわりには、みんなの
唇の
跡が、
数かぎりなくついているのです。」と、お
母さんはいわれました。
このお
話を
聞くと、お
姉さんも、そうであったかというように、かわいらしい
目を
輝かしました。
しかし、お
姉さんも、お
兄さんも、そんなにして
毎日飲んだ、お
乳の
味を
忘れてしまって、ただお
乳を
見ると
恋しいばかり。
赤ちゃんだけが、お
乳の
味を
知っていました。
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