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酒場にて(定稿)

中原中也




今晩あゝして元気に語り合つてゐる人々も、

実は、元気ではないのです。


近代いまといふ今は尠くも、

あんな具合な元気さで

ゐられる時代ときではないのです。


諸君は僕を、「ほがらか」でないといふ。

しかし、そんな定規みたいな「ほがらか」なんぞはおやめなさい。


ほがらかとは、恐らくは、

悲しい時には悲しいだけ

悲しんでられることでせう?


されば今晩かなしげに、かうして沈んでゐる僕が、

輝き出でる時もある。


さて、輝き出でるや、諸君は云ひます、

「あれでああなのかねえ、

不思議みたいなもんだねえ」。


が、冗談ぢやない、

僕は僕が輝けるやうに生きてゐた。

(一九三六・一〇・一)






底本:「新編中原中也全集 第二巻 詩※(ローマ数字2、1-13-22)」角川書店

   2001(平成13)年4月30日初版発行

※底本のテキストは、著者自筆稿によります。

※()内の編者によるルビは省略しました。

入力:きりんの手紙

校正:hitsuji

2021年3月27日作成

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