大昔のことでありました。
海のおばあさんといって、たいそう
気むずかしやで、すこしのことにも
腹を
立てるおそろしいおばあさんが
海の
中に
住んでいました。だれもあまり
近寄りませんでしたから、おばあさんは、さびしかったのです。
ちょうど、そのころ、
山に、また
山のおばさんといって、やさしいおばさんが
住んでいました。だれにでもしんせつで、
気にいらないことがあっても、
笑っているというふうでしたから、
小鳥たちや、
空を
飛ぶ
雲でさえ、おばさんを
慕って、
「おばさん、きょうはいいお
天気ですが、ご
機嫌はいかがですか?」と、いって、
寄ってきました。いつも、おばさんは、
楽しかったのです。
あるとき、
海のおばあさんは、
風を
使いにたて、
「
私は
独りぽっちでさびしいから、どうぞお
話にいらしてください。」と、
山のおばさんのところへいってきました。
「それはお
気の
毒のことだ、さっそくいってあげましょう。」と、いって、
山のおばさんは、
大きなざるの
中へ
新しい
野菜と
珍しい
果物をたくさん
入れて、お
土産にして
海のおばあさんのところを
訪ねました。
「よく、きてくれました。」と、おばあさんは
出迎えました。
「これは、
山で
取れましたものですが、どうぞめしあがってください。」と、おばさんは、ざるに
入った
土産を
出しますと、おばあさんは、
「これは、これは。」といって、まだ
見たことのないものばかりなので、
喜びました。
いろいろお
話をして、おばさんが
帰るときにおばあさんは、
魚と
貝を
取り
出して、
「これはすこしばかりだが、
海のものだから
持って
帰ってください。」と、いいました。おばさんは、お
礼を
申して、さて、
魚と
貝をなんに
入れていったらいいものかと
考えましたが、なにもなかったので、
「おばあさん、すみませんが、そのざるをお
貸しください。」と、いって、
自分の
土産を
入れてきたざるを
借りて
帰りました。
山のおばさんは、ざるのことなど
忘れてしまいましたが、
海のおばあさんは、いつまでたってもおばさんが、ざるを
返さないので
腹を
立てていました。このことを、
風に
相談しましたが、
風もあまり
海のおばあさんが、やかましすぎると
思ったので、
聞き
流してしまいました。
それからというもの、おばあさんの
心が
海に
残っていて、いまにも、
浜辺へ
打ち
寄せる
波の
音が、
「ざるかえせ
||、ざるかえせ
||。」と、なりつづけているのであります。