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和歌三

坂本龍馬




   秋の暮れ

嵐山夕べ淋しく鳴る鐘に

    こぼれそめてし木々の紅葉


   桂小五郎揮亳を需めける時示すとて

ゆく春も心やすげに見ゆるかな

    花なき里の夕暮の空


   ○

こゝろからのどけくもあるか野辺ハ猶

    雪げながらの春風ぞ吹


   ○

丸くとも一かどあれや人心

    あまりまろきはころびやすきぞ


   奈良ママ崎将作に逢ひし夢見て

面影の見えつる君が言の葉を

    かしくに祭る今日の尊さ


   父母の霊を祭りて

かぞいろの魂やきませと古里の

    雲井の空を仰ぐ今日哉


   ○

ゑにしらが艦寄するとも何かあらむ

    大和島根の動くべきかわ


   ○

常磐山松の葉もりの春の月

    あきハあはれと何をもいけん


   ○

世と共にうつれば曇る春の夜を

    朧月とも人は言ふなれ


   土佐で詠む

さよふけて月をもめでし賤の男の

    庭の小萩の露を知りけり


   伏見より江戸へ旅立つとき

又あふと思ふ心をしるべにて

    道なき世にも出づる旅かな


   淀川を遡りて

藤の花今をさかりと咲きつれど

    船いそがれて見返りもせず


   泉州名産挽臼

引臼の如くかみしもたがはずば

    かかる憂目に逢はまじきもの






底本:「龍馬の手紙」宮地佐一郎、講談社学術文庫、講談社

   2003(平成15)年12月10日第1刷発行

   2008(平成20)年9月19日第7刷発行

※表題の「三」は、ファイル作成時に補いました。

※十三首の和歌から構成されています。

※三首目の底本和歌写真のキャプションに、(東京 伊藤家文書)とあります。

※八首目の底本和歌写真のキャプションに、(上田 三吉家文書)とあります。

入力:Yanajin33

校正:Hanren

2010年11月12日作成

青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。





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