或望遠鏡製作所に居る友達を私は頻りに訪れてゐる、私は或望遠鏡を彼に依頼したのである、その眼鏡の構造を此処に述べるのは大変だから省かう。
どうせ忙しい友達が仕事の合間を見計つて徐々と組み立てるのだから何時仕上るか解らない、彼と私と共同で設計した少々型ちの変つた眼鏡でウマク行けば今の私にとつては得難い侶伴になる筈だ。||私達は静かに亢奮してギンザ裏のバーを次々に工房に変へて行つた。彼のポケツトからはコンパスや鉛筆や定規などが煙草の間もなしに出し入れされるのであつた。私は紙挟みを開いて、ケント紙に線を加へ数字を記入しながら、滅多に眼ばたきもしなかつた。
||独りの部屋に帰つて窓先きを眺めてゐると棕櫚の樹の葉蔭に何時もの
棕櫚の梟がこの二三ヶ月の間どんな親しい言葉を私に囁いて来たかは省かう。