とても蒸暑い日でした。私たちは、暑い暑い、今日は殊更に暑いではないか、僕はさつきまで自分の部屋に居たのであるが、凝つとしても汗が流れたよ、身の扱ひように困つて
爽快! さうだ、ほんとうに、その舞踏学校の可憐な学生達の花々しい稽古の様はこの形容詞の持つ感じに尽きた有様で、観る者に汗を忘れしめ、感心の心を抱かせました。
その学校の門をくゞると、妙なるピアノの音に伴れて朗らかな合唱の声が、水のせゝらぎの如く洩れ聞え、更に耳を傾けて見ると、いとも制然たる足踏みの音が、物々しいリズムを持つて何といふこともなしに厳か気に響いて来るのに気づき、私達参観者は忽ち胸に一脈の緊張感を覚えました。
そこで私達は足を速め、門を叩き、刺を通じて、案内を乞ひました。
さて、そのギムナジウムの光景を簡単に
学生等は最も軽やかな「運動シヤツ」一つです。素足です。海水浴場の少年かと見まごふばかりの、元気に充ち溢れた娘達です。美しいイボンヌ先生が、ワンツウ、スリー······何々何々! と恰も銀鈴のやうに澄み渡つた号令をかけ、ピアノが鳴り始めると、学生等は一勢に足並みそろへて、それからそれへ、様々な類ひの運動を懸命に繰り返します。フツト・ボール競技を振りつけした旺んな体操が始まります。飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ! グラウンドに現れた選手は身振りよろしく空を蹴つて、グルグルと飛び回る、ボールを奪ひ合ふ様がある、一勢に脚をふまへて縦にそろつて、脚から脚の間を球をうけ渡して行く様がある||それツ! と、再び飛び散り、再び相寄り、床に伏して、キヤプテンの脚にふまへられる颯爽たる様がある、あしのうらの音が、ヒタヒタと床に、物凄まじく、拍手の音のやうに響き渡る、||また、三十人? もの生徒がヒラヒラと舞ひ出て、夢見る如き眼ざしで両腕をハラハラと打ちふるはせながら、トウ・ダンスの練習がはぢまる。
また、号令がかゝると、一勢に脚は頭上にあがる、
ギムナジウムの壁の一面は鏡であります。踊る子達は、己れの姿を細大洩さず、これに依る客観視し得るためでありませう。参観者の眼には、これに映つて学生等の人物が倍に見へ、広い/\体操場で美しいマス・ゲームを観るかのやうな感も誘はれました。
隣りは一年生の教室で、恰度その時は、朗読の時間であるらしく思はれました。私は、中学一年生の教場を思ひ出しました。先生の指名に依つて、生徒は、机で、ひとりびとり順々に、科白の暗誦をしてゐました。何々さん! と先生が命ずると、その生徒は、自分の席で、暗誦をはぢめます。
お姫様は森のかたほとりで若者に出遇ひました||といふやうな、ト書の個所を先生が読むと、一年生でも、若者ならば若者らしい音声で、若者の科白をそらんじてゐました。
(?)若者は、そこで弓を棄てゝ森の中へ入つて行きました······。
「············」
お姫様の言葉||。
この朗読時間の様も、私には、物珍らしかつたせゐか、名状しがたく可憐にうつり嬉しさを覚へました。この隣りに、更衣室といふのがあり、仕度をしたり、シヤワーを浴びたりしてゐる生徒があるらしく思はれ、
あまり簡単な誌し方で意に充ちませんがこの参観は近頃私にとつて、有益なことでありました。私は、若し自分に娘があつたら普通の女学校へ入れる代りに舞踏学校に入れたい。親類に娘があるから此処への入学をすゝめようかしら||などゝ思ひました。やがて舞台に立つといふのは、別の問題として控へておき、発育盛りのゴールデン・エージを斯うした運動に専心その身を委ね、自らもまた此上なく楽しく励むことが出来、「人生と舞踏」といふ観念に