男の子たちはみんな、体中まつ黒にしたいと思ひました。色のなまつ白い男の子なんかは、この漁師の村ではバカにされました。それに夏休みがすんで九月になると、村の小学校では「黒んぼ会」があるのでした。
「今年は、
黒んぼ会は、学校中で一番日に焼けた男の子だけ三人選んで、黒いふんどしの賞品をくれるのでしたが、それには会のマークが入つてゐるので、みんな欲しかつたのです。
「ちきしよう、
「君なんぞ
「ぢや、君だつて駄目だい。足の裏が白いぢやないか。」
「足の裏はいいんだぞ。」
「いや、駄目なんだい。去年から徴兵検査みたいに、お
夏休みの終り
みんな黒んぼ会を、大へん楽しみにして待ちましたが、郵便局の
清ちやんは尋常二年ですが、去年の黒んぼ会には、一番体が白くて、みんなから「
清ちやんは「白瓜」と
「困つたなあ、足まで見るんだつて······」
清ちやんが、お尻や足の裏まで見られることを聞いて来て話すと、お母さんは目を円くされました。
「へんな黒んぼ会ねえ。そんなんだつたら、その日だけお休みよ。丈夫でさへあれば、色なんか白くつたつていいんですから。」
「だつて······」
清ちやんは、その日だけ休むと、きつとまた何とか云はれるにきまつてゐるので、その日までに、どうかして、白い自分の足を黒くしたいと思ふのでした。
九月の一番はじめの土曜日が、その「黒んぼ会」の日でした。学校は朝から大騒ぎで、男の子は大抵運動会の日のやうに、シヤツとパンツだけで、中にはわざと、黒いふんどしだけの跣足の子もゐました。
お昼ごはんをすますと、女の子たちは早く
靴を脱ぎ、裸体になつた清ちやんは、ブルブルふるへながら、「気をつけエ」の姿勢をしてゐました。清ちやんの足は、体と同じやうにまつ黒でした。
「わからねばいいが······」
受持ちの先生と、体操の先生と、それから校長先生とが、順々にみんなの黒い体や足を見て来られます。清ちやんはハラ/\しながら、でもツンとすましてゐました。
「わからねばいいが······」
でも、やつと助かりました。
清ちやんたちの二年生からは、三人の黒んぼさんが前へ出されました。この三人が、また外の
「助かつたツ!」
講堂を出て行く時、清ちやんはホツとして、今まで自分の突つ立つてゐた場所を、そつと横目で見ました。そしてドキツとしました。
そこには清ちやんの黒い足跡が、影絵のやうにくツついてゐたからです。
清ちやんは大急ぎに飛び出して、汗を流しながら靴をはくと、見向きもせずにお
そこへ、お母さんが出て来られました。
「あら、誰かと思つたわ。黒んぼ会はもう終つたの? あんた、どうだつた?」
「ぼくねえ、あれなの、上等の方なの。足だつて黒かつたし。だけどね、靴墨をぬつてたので、講堂に足跡を残して来ちやつたア。」
二人とも笑ひました。笑ひながらお母さんは、シヤボンを出して来て清ちやんの足の靴墨を、すつかり洗ひ落して下さいました。
|昭和一〇年八月二三日作|