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小熊秀雄と藤原運

槇村浩




サガレン。絶北の植民地。|||こゝに小熊秀雄かつて行商の鍬と共に放浪し

数年後藤原運またショベルを携えて徘徊はいかいした


小熊秀雄は自然を最もよく背后の凹影に見た

藤原運は自然を最もよく前面の凸影に見た


小熊秀雄は社会を痴呆せる自然の背后におしかくした

藤原運は社会を麻痺せる自然の前面におしすゝめた


小熊秀雄は生来の饒舌でしゃべりにしゃべりまくった

藤原運は労働者の簡素さでけんそんに語った


小熊秀雄は自然弁証法の詩人だった

藤原運は唯物弁証法の詩人であるだろう


小熊秀雄は時代の誤りを持つが故に多く愛され

藤原運は絶対に正しいが故に少く愛された

だが、ルンペンの愛が少数のプロレタリアートの愛に替え難いとしても、わたしらは時として寂しい

なぜなら、わたしの内にあるいくたのサガレンを正しく、そしてもっと多く世界に伝えることは、同志藤原の任務だから






底本:「槇村浩詩集」平和資料館・草の家、飛鳥出版室

   2003(平成15)年3月15日

※()内の編者によるルビは省略しました。

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年3月8日作成

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