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萩原朔太郎




白雲のゆききもしげき山の端に

旅びとの群はせはしなく

その脚もとの流水も

しんしんめんめんと流れたり

ひそかに草に手をあてて

すぎ去るものをうれひいづ

わがつむ花は時無草の白きなれども

花びらに光なく

見よや空には銀いろのつめたさひろごれり

あはれはるかなる湖うみのこころもて

燕雀のうたごゑも消えゆくころほひ

わが身を草木の影によこたへしに

さやかなる野分吹き來りて

やさしくも、かの高きよりくすぐれり

(大正二年九月)






底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年5月30日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年12月10日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年6月25日作成

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