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感傷の塔

萩原朔太郎




塔は額にきづかる、

螢をもつて窓をあかるくし、

塔はするどく青らみ空に立つ、

ああ我が塔をきづくの額は血みどろ、

肉やぶれいたみふんすゐすれども、

なやましき感傷の塔は光に向ひて伸長す、

いやさらに伸長し、

その愁も青空にとがりたり。


あまりに哀しく、

きのふきみのくちびる吸ひてきずつけ、

かへれば琥珀の石もて魚をかこひ、

かの風景をして水盤に泳がしむるの日、

遠望の魚鳥ゆゑなきに消え、

塔をきづくの額は研がれて、

はや秋は晶玉の死を窓にかけたり。






底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年5月30日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年12月10日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年6月25日作成

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