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月蝕皆既

萩原朔太郎




みなそこに魚の哀傷、

われに涙のいちじるく、

きみはきみとて、

ましろき乳房をぬらさむとする。

この日ごろつかふことなく、

ひさしくわれら靈智にひたる、

すでに長き祈祷ををへ、

いまみれば月も皆既なり、

魚の性はせんちめんたる、

みよ、うみはみどりをたたへ、

肉青らみ、

いんいんとして二人あひ抱く、

齒と齒と合し、

手は手をつがひ、

もつれつつからまりにつつ、

いんよくきはまり、

魚の浪におよぎて、

よるの海に青き死の光れるをみる。






底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年5月30日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年12月10日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年6月25日作成

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