「われ/\は諷射しよう!」
と詩人大江鉄麿は、幅広いこめかみを引きつけて吃りながら言った
「保留と伏字の泥沼で、編輯者が自分で自分の評判を悪くしたとき
犬の詩を書く代りに書かすことが、ジャーナリズムの紹介業者たちの仕事となっているとき
われ/\がみんな真面目な吃りであることを強いられているとき
われ/\は正確に、そして効果的に吃ろう!
刺すことは、敵の一卒を倒すだろう
だが散兵壕はいま大量屠殺のまっさいちゅうだ
われ/\が射程を拡大しなければ、何によってわれ/\の立遅れを克服することが出来るだろう
射ることは敵の全線を乱すだろう
たとえ一卒を倒さずとも、全隊を乱せばわれ/\の任務は終るのではないか
詩は単独ではかつて何者をも倒しえなかった|||また永久に倒しえぬだろう。」
詩人大江鉄麿は、労働で上皮だけ油ぎった額を句切りごとに昂奮に吃らせ、ヴェードヌイのようにおどけてみせながら言った
「諷刺の代りに、われ/\は諷射しようではないか!」
(十四行詩)
|一九三五・八・三一|