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詩諷

大江鉄麿諷射宣言

槇村浩




「われ/\は諷射しよう!」

と詩人大江鉄麿は、幅広いこめかみを引きつけて吃りながら言った

「保留と伏字の泥沼で、編輯者が自分で自分の評判を悪くしたとき

犬の詩を書く代りに書かすことが、ジャーナリズムの紹介業者たちの仕事となっているとき

われ/\がみんな真面目な吃りであることを強いられているとき

われ/\は正確に、そして効果的に吃ろう!


刺すことは、敵の一卒を倒すだろう

だが散兵壕はいま大量屠殺のまっさいちゅうだ

われ/\が射程を拡大しなければ、何によってわれ/\の立遅れを克服することが出来るだろう

射ることは敵の全線を乱すだろう

たとえ一卒を倒さずとも、全隊を乱せばわれ/\の任務は終るのではないか

詩は単独ではかつて何者をも倒しえなかった|||また永久に倒しえぬだろう。」


詩人大江鉄麿は、労働で上皮だけ油ぎった額を句切りごとに昂奮に吃らせ、ヴェードヌイのようにおどけてみせながら言った

「諷刺の代りに、われ/\は諷射しようではないか!」


(十四行詩)

|一九三五・八・三一|






底本:「槇村浩詩集」平和資料館・草の家、飛鳥出版室

   2003(平成15)年3月15日

※()内の編者によるルビは省略しました。

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年3月8日作成

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