年おいた山梨の木に 年おいた園丁は
林檎の
研ぎすまされたナイフををいて
うそさむい 瑠璃色の空に
そんなことが 出来るのでせうか
やをら 園丁の妻は首をかしげた
やがて 躑躅が売笑した
やがて 柳が淫蕩した
年おいた山梨の木にも 申訳のやうに
二輪半の林檎が咲いた
そんなことも 出来るのですね
園丁の妻も はじめて笑つた
そして 柳は失恋した
そして 躑躅は老いぼれた
私が死んでしまつた頃には
年おいた 園丁は考へた
この枝にも 林檎が
そして 私が忘られる頃には
なるほど 園丁は死んでしまつた
なるほど 園丁は忘られてしまつた
年おいた山梨の木には 思出のやうに
林檎のほつぺたが たわわに光つた
そんなことも 出来るのですね
園丁の妻も いまは