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DILEMMA.

佐藤緑葉




いらだたしき一夜、

群集と巡査とは睨みあい、

街燈の瓦斯の灯も常より青し。


窓硝子のやぶるる音に、

喜びて叫ぶ声、恐ろしき鬨の声、

馳せちがう民衆と警官の剣鞘のおと。


哀れにも暴君のくるしむ姿、

われもまた群集ともろ共に手を打って

幾度か「バンザイ」を叫ばんとせしが、されど······


かの家にはわが椅子あり、

わがペンもあり、

かかる時なお忘れえざるわがパンの家。


雨のごとく石はふり、

群集は狂おしく鳴りわめく、

いらだたしき銀座の一夜。

(『近代思想』一九一三年三月号に発表)






底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社

   1987(昭和62)年5月25日初版

初出:「近代思想 第一卷第六號」

   1913(大正2)年3月1日発行

※初出時の署名は「緑葉」です。

※本文末の編者による注記は省略しました。

入力:坂本真一

校正:フクポー

2018年6月27日作成

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