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イリイッチの長靴

佐藤武夫




イリイッチの長靴は十年を歩み続けた!

ボロボロで、デコボコだ、破れかかっている。健康にあふれて、はち切れ相だ

わざと盛り違えた処方箋や、持ち古るされた殺戮によって真赤な血を塗りたくられている

俺達は知ってるんだ!

||イリイッチの赤い長靴を

||その正確な跫音あしおと

||襤褸ぼろっきれに包まれた「健康」を

それこそ||

全ての鞭を堪えて歩む方向ある操作だ

労働者と農民の国の正しいまなざし

戦争の脅威に抗する力学だ

歴史の精密なる計算を担う健康だ

世界の隅々より一切を取上げる闘いだ

赤き金曜日の出発と、サッコ、※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)ンセッチに対する糺問を

支那の沸騰と「支那より手を引け!」の合言葉を

ウインの街頭にツリ下げられた官服とサーベルの報告を

正しく歩ませ、訊問し、切り刷く明瞭な導きと勇敢な闘いだ


イリイッチは死んだ!

だが||

黄色なしみったれた雰囲気を押しのけて

十年間歩み続けたイリイッチの長靴を「群集の日」まで歩ませろ!

 この歩みに抗する一切の系統を

 イバラを積重ねるふやけた脳髄を

 戦争を強要する兵隊靴の威喝を

歴史の教科書にまで叩込むんだ!

博物館にまで押し入れるんだ!


赤きイリイッチの長靴の祝祭に

世界の隅と隅と、角と角より

激怒と悲惨と歓喜と号泣を含んだ報告と

それらの報告と報告より盛り上る出発と

隅と隅、角と角との強固な結び附けと

いら立たしい歴史の興奮を

||送るんだ※(感嘆符二つ、1-8-75)

世界の同志よ!

イリイッチの長靴を歩かせろ!

(『プロレタリア芸術』一九二七年十一月号に発表 同年十一月マルクス書房刊『一九二七年プロレタリア詩集』を底本)






底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社

   1987(昭和62)年5月25日初版

底本の親本:「一九二七年プロレタリア詩集」マルクス書房

   1927(昭和2)年11月

初出:「プロレタリア芸術」

   1927(昭和2)年11月号

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年12月12日作成

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