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須賀爺

根岸正吉




須賀爺の面の憎さよ。

あの

額に寄する残忍の皺よ。

冷酷のまなざしよ。

憎らしきえくぼよ頬っぺたの穴よ。


須賀爺の面の憎くさよ。

今日も亦緯糸よこいとをたぐりしと叱りし。

解雇するぞとおどかせし。

そんなに叱るなよ。罵しるなよ。

おれは慣れないのだ。

機台の前に立つさえ怖いのだ。

あのの音おさ打つ音にも驚くのだよ。


須賀爺の面の憎さよ。

おれのみが憎むのではない。

みんなだ。

時間が十二時を打っても機械が止まっても

汽笛の鳴らぬうち

飯食いにやらぬと出口に立ち塞がる。

あの面の憎くさよ

(『新社会』一九一六年六月号にN正吉名で発表 一九二〇年五月日本評論社刊『どん底で歌う』を底本)






底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社

   1987(昭和62)年5月25日初版

底本の親本:「どん底で歌う」日本評論社

   1920(大正9)年5月

初出:「新社会」

   1916(昭和5)年6月号

※初出時の署名は「N正吉」です。

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年5月25日作成

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