ゴシゴシゴシキイキイゴシゴシ······
俺の役目はでっかい鉄のシャフトを磨くのだ
まっ赤に染まったどろどろの手袋の中で
感覚を失ってしまっている俺の手は
俺の全生命をこめて鉄のシャフトを磨くのだ
||捨値で買ったボロボロに腐りかけた幾万本の鉄のシャフトは
磨いて塗って幾十倍に売りつけられるのだ
コンミッションの力で
新品としてスラスラ通って行くのだ
買うのは誰だ||やっぱり俺達だった
売った生命の代価はかくして奪われ
残る物は何だ||残るものは病根だ。老衰だ。発狂だ。いや死だ!
「しっかり力を入れて磨けやい」
かんとくにどなられ
ゴシゴシゴシキイキイゴシゴシ
磨く俺の手にまっ赤にこびりつくものは何だ
||こずり減らされた生命だ||いやその代価だ。奪われた代価だ
(発表誌不詳 『新興文学全集』10を底本)