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ある日

陀田勘助




砂糖のような安逸が

おれの感覚をにぶらしている

鍋底で倦怠だ! 憂鬱だ! と小声でつぶやいている

若い熱情が下駄の歯のようにすりへりそうだ

残火が火消壺で喘いでいる

短気な意志が放心した心臓をつかんでいる

そいつはかす

おれの食慾がめしを喰ってる

おれの性慾が女を恋しようとしている

オブロモフ! オブロモフ! オブロモフ!

倦怠をつぶやきながらも安逸は砂糖のように甘い

憂鬱の霧を逃れようともしないでおれはうずくまっている

だがそこを突きぬけようとする意志!

沈頽した牢獄に投げられた

やり場のない憤怒!

内抗する病菌だ!

月蝕だ!

月蝕だ!

熱情がむしばまれようとしている

月蝕が煙突の上にはいのぼる

(『鎖』一九二三年六月創刊号に発表 一九六三年八月国文社刊『陀田勘助詩集』を底本)






底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社

   1987(昭和62)年5月25日初版

底本の親本:「陀田勘助詩集」国文社

   1963(昭和38)年8月

初出:「鎖」

   1923(大正12)年6月創刊号

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年12月30日作成

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