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おれの飛行船

陀田勘助




おれは白蟻のように噛み切ることはできない

おれは飛行機のように軽快に空を飛ぶことはできない

だが脳髄の中の空間に飛行船を遊歩させることはできる

現在の頁を空白に削りとられた者の前には

明日の希望が堂々と逍遥し始める

のぞき窓からのぞき込む鋭い二つの目も

希望の青空を漂泊するおれの飛行船を

のぞき得ないし、捕らえ得ないし、投獄し得ない。

おれの希望の青空に昇るのは

工場の烟突と凍え飢えた野良にかがやく太陽だ

(獄中から大沼渉宛書簡一九三一年二月四日付 『陀田勘助詩集』を底本)






底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社

   1987(昭和62)年5月25日初版

底本の親本:「陀田勘助詩集」国文社

   1963(昭和38)年8月

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年12月12日作成

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