君はおれの肩を叩いてきいてくれる
君は親しげなまざしでおれを見る
おお君はいつもおれの同志
おれたちの力強い同志
しかしおれには今
君の呼びかけたらしい言葉がきこえない
君はどんなにかあの懐かしい声で
留置場からここへ帰って来たおれに
久方ぶりで語ってくれたであろうに
おれには君の唇の動くのが見えるだけだ
パクパクとただパクパクと忙しげな
静けさ、全く静けさイライラする静けさ
扉の外に
何と不自由な勝手のちがった静けさか
音響の全く失われたおれの世界
自分の言葉すら聞えず忘れてゆこうとしている
おれは君と筆談だ、君は書く
||おれたちは来る六月十九日の文化連盟の
拡大中央協議会を攻撃の中に開催すべく闘っている。
よし君の言うのはわかる
||おれの耳を奪ったのはあいつ××だ
おれは奴らのテロで耳を奪われたが
××は腕を折られた、足腰も立てなくなってる。
||そうだ奴らはおれたちの側の耳を奪い
手足までも奪ってしまおうとしているのだ
おれたちはそれを奪い返そう
引ったくってやろう
奪われてなるものか
それが後に残った者達の重大な仕事だ。
おれは耳を奪われたしかし
君の文字が伝えてくれるおれたちプロレタリアの側の熱意が
こんなにハッキリわかるのが実にうれしい
おれには
||おお おれたちの同志しっかり!
おれもやるぞ!
(一九三二年六月作『文学新聞』同年七月十五日付に発表)