嵐は今日も街々をかけずりまわっている
君は一度でもこの嵐の原因について
考えたことがあるんですか
それよりも もっと もっと
大きい嵐について
もっと現実的な
人と人とのつながりにおいて
人間個々において
人類全体において
水平線的な 風雨の原因について||
嵐の日の何もできない一日を
じっと反省の思惟にふけるがいい
君はきっと
希望の駿馬にまたがり
倫理の手綱をにぎることができるのだ
君はそのつぶらな瞳を輝かせるがいい
その瞳は星をあおぎ
詠嘆に曇らせてはいけない
君が今立っている地上
一尺平方周囲から観察すべきである
そして 一尺一尺拡大してみるがいい
君はそこで自分一人の
環境の愚痴はこぼせまい
君と同じ生活の
君以下のどぶ泥にもがいている女性の
二人の三人の六人のかぞえきれないほどに
日本 最初の最後の女性として 人間としての
あえぎを あえいでいるではないか
嵐の後の草木が頑強に大地をふまえて
生きぬいているではないか
弱い葉ッぱと枯枝は
無惨にもふきちぎられている
強くなれ 強くなれ と
はんらんして河は呼びかけている
一滴一滴の水が集り集って
大きな力で動いているではないか
光りは闇より
良心の悩みこそ
輝く未来への掛橋でなければならない
一夜 嵐にさいなまれた
バラスの道を眺めるがいい
ごみとあくたは洗われて
今朝は まさごまさごの本性が
色とりどりに ほほえんでいる
きたわれ きたわれた もののみが
生きる
喜びの
青天に
青葉 青葉を
かざしている
根をはっている
(『詩人』一九三六年九月号に発表)