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河の上の職場

大江鉄麿




黒い水面が時々石炭の切れ口のように、ギラギラと河波の照りかえし、

中ひざまでせきとめられ、八本のミキサコンクリトがけの鉄骨に、

歯をむきだし、

カプリと、

背筋をひきちぎる音波をうって、揺れてゆく河||


脳味噌をぶち砕くような、のたうつ肚の底までピリピリと震動さす響。


八尺胴切の鉄骨、首もとからねじられ、下の合首まで、蒸気鉄鎚スチームハンマーのするどい拍車の折返えしを喰って、へどをはきキャップを平ッぺに曳きこまれる。

ほうろ下駄歯に列組んだ鉄骨。

でっかい削炎に虫のような泥声をはく親方、

火のような熱いなまりが、ガワンーガワンーと打ちさげらるる破壊的な響に混って、断続として、飢えと、疲れにうごめく労働者おとこだちの胸板に飛びこんでくる、

強烈にはじける、赤さびた鉄骨林の上、棒立につったって、けらのような「笑い」を噛み殺した顔、

片っ腹をしみ合し、一尺巾の足台に、ぐっと呼吸を掘りさげ、業をにやした胸くそ、

その場にたたきつけてやりたい悪びれが、頭のさきから足の裏まで、冬の牙をとがらし、古茶びんの貪婪さで、鶴嘴のような冷めたさがひやりと湧きたって、鉄骨の胴のなかへダニのようにからみ。


艶のない鉄骨

カプリと河波のんで、一日、労働者おとこだちの心臓をもみつぶして、対岸のバラック街と一直線に結ぶため、あらゆる食欲をひきちぎる。

(『文学案内』一九三五年十二月号に発表)






底本:「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」新日本出版社

   1987(昭和62)年6月30日初版

底本の親本:「文学案内」

   1935(昭和10)年12月号

初出:「文学案内」

   1935(昭和10)年12月号

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年8月29日作成

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