お前が工場の帰りに買ってきてくれた
この櫛は
もう あっちこっち 歯がこぼれた
お前がオッカサンとよばってくれる
その日がまためぐってくる
ヒトツキ フタツキ と
かぞえさせる
お前からの夏のタヨリを
帯にはさんでいる||
六十二にもなったわたしのふしぶしは
ズキン ズキン ズキン
ヒビがひろがってゆく
お前がアバシリの
刑務所におくられてから二年と四ヵ月
くる
ほほッぺたのまるっこいお前の写真を
霜焼けに疼く指先にささえて
炉ばたの隅で
あッためてやってるたんびに
わたしの
薄くなったマツ毛は濡れて
ああ どんなにか
本当のお前に会いたいことか
正直なわたしのセガレ
ウソやゴマカシでは
ゴハンをたべれなかったお前
豆腐汁の好きだったお前の
お椀の上でのほほえみが
今もわたしに
||ふるえる ふるえる
コブシをにぎらせる
(『プロレタリア文学』一九三二年一月創刊号に発表)