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落葉

木村好子




落葉よ、落葉よ、

秋風に吹かれて、

お前がカラカラと鳴り乍ら

井戸端に水すすぐ私の手元へ、黄色く、

舞いこんでくると、

おお、私は胸ふたがれる!


何一つもたらすことなく、

過ぎ去った日の一日一日を

ただ、えいえいと

つづれつくろい、米かしぎ

凡てののぞみも、よろこびも、

かなしみさえもおき去りにして

生涯をただ貧しく終えゆく無数の私らの生命のように、

ああ、お前は散ってゆく、

秋風になぶられて、舞い乍ら······


空は、

こんなに青く、深く、

豊かにみのっている穂波もあろうに。

落葉よ、

お前のそのカラカラと鳴る音は

どんなに、私の胸をたたき、

あわれを||

はきよせられ、すて去られるものの上にはせさせるか!


ああ、ひょうひょうと舞い乍ら、

むなしく散りゆく落葉よ!

けれども、

お前のそのつもりつもったむくろが、豊饒な土壌をつくり、

やがて、来る春にそなえるように、

私たちの、このいためられた生活が

失ったものが、

地上にみちあふれ、天地を包むとき、

そこに、

新らしい世界が······


おお落葉よ、落葉よ、

私らのもみくちゃな生よ、

苦悩のカラよ

秋風にたたかれて、激しく、

散れよ、散れ!

(『詩精神』一九三五年十一・十二月合併号に発表 一九三六年一月前奏社刊『一九三五年詩集』を底本)






底本:「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」新日本出版社

   1987(昭和62)年6月30日初版

底本の親本:「一九三五年詩集」前奏社

   1936(昭和11)年1月

初出:「詩精神」

   1935(昭和10)年11・12月合併号

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年5月24日作成

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