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メーデーを待つ

木村好子




うす暗い長屋のすみで、毎日、

私と坊やは糊まみれ、

糊にまみれてせっせと渋団扇しぶうちわを張るけれど

戦争にあなたを奪われた私の生活

張っても張っても追っつかない

苦しい暮しの真ただ中で||おお早や五月

闘いのメーデーが来る!


おお戦争と白テロの渦巻く中

今年のメーデーはどんなにすごかろう

それにつけても忘れられぬあなた!

去年、あのだらしない葬式とむらい行列に

組合の人達と一緒に割り込みの先陣をうけもったあなた、

あなたは今は何処に?

引ったてられて行ってからもう三つき

どこにいるやら便りもない


おお何の便りもよこさないあなた!

戦争はしつこくながびき

侵略の陰謀に折づめされた

あなたの便りは聞かれぬけれども

||忙しい仕事の合間合間に

訪ねてくれる組合の人とも語る

あなたは腕のある組織者オルグ! どこにいようと、

きっと仲間を集めて逆襲にそなえているであろう。


おおあくことなく信頼するあなた! 愛する私の夫!

木々の芽はのび、戦いの五月は迫ってくる

此頃||組合の人達はせっせと準備している

組合の人から聞きおぼえた

坊やのメーデー歌も片言まじり·········

苦しい暮しをけとばして、示威デモるその日を、

そうだ! 坊やも私と糊にまみれて待こがれる。

(『働く婦人』一九三二年五月号に発表)






底本:「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」新日本出版社

   1987(昭和62)年6月30日初版

底本の親本:「働く婦人」

   1932(昭和7)年5月号

初出:「働く婦人」

   1932(昭和7)年5月号

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年9月1日作成

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