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テレモピレノ

槇村浩




一峯吹く嵐音絶えて 鐘の音遠く月落ちて

 露は真珠としたゝりつ 風や松葉を払ふらむ

二友に別れし雁一つ 空に声して飛び行けば

 苔むす石碑人絶えて 無情の草木涙あり

三訪ふ人稀の石ブミに 霧や不断のコウをたき

 月常住の燈となり 英雄の末吊はむ

四昔の儘の山川も 南楼月をもて遊び

 月とや秋を期すれども 遂に帰らぬ人の跡

五雲霞の勢を引受けて 死すとも此所を退かじ

 スパルタ武士の名を知れと 実に勇ましやレオニダス

六星霜茲に二千年 英名末に伝はるも

 月無く嵐狂ふ夜は 霊魂空に迷ふらむ

(十二歳最後の記念として大晦日夜作)

(大正十二・一二・三一)






底本:「槇村浩全集」平凡堂書店

   1984(昭和59)年1月20日発行

※著者が、高知市立第六小学校三年生、四年生のときの作品。謄写版刷りの、同校文集「蕾」から、底本に採録された。

入力:坂本真一

校正:雪森

2014年9月11日作成

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