まがどりのやうな冠船が翼をひろげて
薩摩の殿にはあへまいわなあ。
まざまざと浮んでくるやうな。|
殿はいま露つぽい
あゝなさけない世となつた。
ついあけがたまでなつかしい殿御と
添寝の夢の名残は
うらめしい
むつくり起きあかりて仰せらるゝ
「さらばかめイしばらくは待つてくれ[#「待つてくれ」は底本では「待ってくれ」]。」
「妾もついてゆきます」と申すと
「これが邪魔する」とはつたと叩れた腰の朱鞘。
そうしててしやで染のわか小指をにぎられたが。
はてなさけない世となつた。
どうして添寝ができませうか。