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かめ

濤音




まがどりのやうな冠船が翼をひろげて

那覇港内なふわとうちにしやんで居るうちは

薩摩の殿にはあへまいわなあ。


凛々りゝしい殿のかみしも姿が眼の前に

まざまざと浮んでくるやうな。|

殿はいま露つぽい美里間切みざとまぎりを深編笠のしのびあるき。


あゝなさけない世となつた。

ついあけがたまでなつかしい殿御と

添寝の夢の名残はへやすみにも残れど。


うらめしい開門鐘けぢやうがねに空が白むと

むつくり起きあかりて仰せらるゝ

「さらばかめイしばらくは待つてくれ[#「待つてくれ」は底本では「待ってくれ」]。」

「妾もついてゆきます」と申すと

「これが邪魔する」とはつたと叩れた腰の朱鞘。

そうしててしやで染のわか小指をにぎられたが。


はてなさけない世となつた。

膏脂あぶら 香 息のつまりさうな唐人と

どうして添寝ができませうか。






底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会

   1991(平成3)年6月6日第1刷

底本の親本:「沖縄毎日新聞」

   1912(明治45)年1月23日

初出:「沖縄毎日新聞」

   1912(明治45)年1月23日

※初出時の署名は「濤韻生」です。

※「沖縄近代詩集成(※(ローマ数字2、1-13-22))沖縄毎日新聞(明治四十二年〜大正三年)篇」法政大学沖縄文化研究所、1988(昭和63)年9月20日発行では判読不可の文字を「まがどり□やうな」「姿□眼の前に」「膏脂あぶら□香□息□つまりさうな」と□で表示していますが、底本ではそれぞれ「まがどりのやうな」「姿が眼の前に」「膏脂あぶら 香 息のつまりさうな」となっています。

※誤植を疑った箇所を、「沖縄近代詩集成(※(ローマ数字2、1-13-22))沖縄毎日新聞(明治四十二年〜大正三年)篇」法政大学沖縄文化研究所、1988(昭和63)年9月20日発行の表記にそって、あらためました。

入力:坂本真一

校正:きゅうり

2018年10月24日作成

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