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レポーター

長沢佑




夜の十一月

北国はもう冬の寒さだ

硝子屑のような鋭い空ッ風が

日本海を越えて吹いて来る

荒涼とした夜の越後平野に

点々とみえるにぶい灯

あれはみんな仲間の住家だ


革命記念日の闘争を前に

ヨビ検の魔の手を逃れ

移動事務所を此処に持った二人の書記

今日で四日の穴居生活だ

沈黙の中に一切の準備は終り

武装された兵士は

現在いま||

戦いの野に旅たたんとしている


そとは夜更けだ

野末を渡る夜烏の声

全神経を耳もとへ集めて

 (あれは犬の遠吠えだ)

し、時刻だ

パッと灯が消える

||

「ひとっ走りに行って来るよ」

「ん、大胆に細心に······

「オーライ」

レポーター仙吉は

納屋の小窓を飛び越えて

暗の中へ||

(『プロレタリア詩』一九三一年十一月号に発表)






底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社

   1987(昭和62)年5月25日初版

初出:「プロレタリア詩」

   1931(昭和6)年11月号

※×印を付してある文字は、底本編集部による伏字の復元です。

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年12月12日作成

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