硝子窓から青猫がやつて来てぼくの膝にのる
よろよろとまるで一枚の翳のやうなやつだ
背をなでてゐるとぼうぼうと啼き出し
ぼくの腹の中までぼうぼうと啼き出し
こいつ こいつ
············だがお前の眼のうるんだ青白い幻燈よ
ゆううつな向日葵のやうにくるりくるりと
黒繻子の喪服の似合ふ貴婦人か
お前は晩秋のやうにぼくの膝にやつてくる
苦い散薬の重いしめりに
色変へるまで青猫を思索するぼくの若さよ
何年も座つてゐたやうに立ち上り窓に歩みよる
ぼくはもうぼくの青猫を放たう
夕暮は力強く窓硝子をおしつけ
その向ふでは雨の跫音が嗤ふ
ぼくは掌をみる ぼくは胸をみる
青猫は
||青猫はもうゐない
いや
青猫はまたどこかでぼうぼうと啼きだす
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