戻る

あるるかんの死

森川義信




眠れ やはらかに青む化粧鏡のまへで

もはやおまへのために鼓動する音はなく

あの帽子の尖塔もしぼみ

煌めく七色の床は消えた

哀しく魂の溶けてゆくなかでは

とび歩く軽い足どりも

不意に身をひるがへすこともあるまい

にじんだ頬紅のほとりから血のいろが失せて

疲れのやうに羞んだまま

おまへは何も語らない

あるるかんよ

空しい喝采を想ひださぬがいい

いつまでも耳や肩にのこるものが

あつただらうか

眠るがいい

やはらかに青む化粧鏡のなかに

死んだおまへの姿を

誰かがぢつと見てゐるだらう






底本:「増補 森川義信詩集」国文社

   1991(平成3)年1月10日初版発行

初出:「詩集」

   1941(昭和16)年7月

入力:坂本真一

校正:フクポー

2017年9月24日作成

青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。





●表記について



●図書カード