私は墜ちて行くのだ
破れた手風琴の挽歌におくられて
古びた天鵞絨の匂ひに噎び
黝い霧に深く包まれて
ゆふぐれの向ふへと私は墜ちて行くのだ
今はこの掌に触れた蒼空もなく
胸近く海のやうに揺れた歌声も
||どうしたのだ私の愛した小さくて美しかつたものよ
小鳥たちよ 草花たちよ 新月よ 青い林檎よ
しきりに眩暈がおしよせる心には
悔恨が一本の太い水脈となり
||陰鬱な不協和音が青く戦き
狂つたヴイオロンが駈け廻り
すべては白蝋石の上に痙攣し
腐蝕した玻璃の破片が暗黒の空間に飛散するのだ
ああ 遂に今 若い肋骨さへ噛み穿つ
寒々と冴えた牙の戦慄よ
●表記について
- このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。