扉や窓を濡し
支柱や車輪を濡し
出ていつた音よ
仄かな調和のどこにも
響はすでに帰らない
色彩はなく
無表情の翳がうかび
しづかな匂ひがひろがり
脱落するシヤツのあとには
あやまちのごとく風が立つた
柱廊はひきつり
手すりはくづれ
静止した平面は
静止した曲面とともに
いちぢるしく暮れた
きびしく遅速をかぞへる
時差のそとに
屹立する実体もまた
ひとつの影像である
壊れた通路を水がながれ
扉や支柱の倒れるなかに
その階段はどこへ続いてゐるのか
鈍い光の輪につづられて
果はみえない
だがその一角は墜ちた
深い空間をまたぎ
おびただしい車輪は戻つてきた
そしておまへの道を走つてゐる
放らつな円心に
廻転するおまへの声がきこえる
おまへとは誰か
強烈に踏みにじられた地域に
いつはりのごとく風が立ち
振動だけが支へてゐる
眼も肩もない
幻の街よ
かぞへきれない壁や腕椅子は
悲痛によじれ
水平のまま沈んでいつただらう
●表記について
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