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衢にて

森川義信




翳に埋れ

翳に支へられ

その階段はどこへ果ててゐるのか

はかなさに立ちあがり

いくたび踏んでみたことだらう

ものいはず濡れた肩や

失はれたいのちの群をこえ

けんめいに

あふれる時間をたどりたかつた

あてもない歩みの

遅速のままに

どぶどろの秩序をすぎ

もはや

美しいままに欺かれ

うつくしいままに奪はれてゐた

しかし最後の

膝に耐え

こみあげる背をふせ

はげしく若さをうちくだいて

未完の忘却のなかから

なほ

何かを信じようとしてゐた






底本:「増補 森川義信詩集」国文社

   1991(平成3)年1月10日初版発行

初出:「ルバル 21集」

   1939(昭和14)年12月

※初出時の署名は「山川章」です。

入力:坂本真一

校正:フクポー

2019年9月27日作成

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