落葉のなげき
よする年波とゞめかねず、
われや落葉あわれ淋し。
名知れぬ浜に流れ漂ひ、
朽つるその日あやめわかぬ。
白く冷たき浪のたわれ、
浮きつ沈みつ夜を日にかへし、
暗らき浮き世をたどる心、
なほもなごめる恋し草びら、
岸に匂へる色を見れば、
すてゝ立ち去る思ひたえじ。
物の哀れ
道をあゆむに痛みつかれ、
「命」淋しく胸に雫き、
想ひ静かに果てを観ず、
鳥の調べに眼うるみ、
花にそゝぎしもろき涙、
若かき岸辺をさかりゆきぬ。
物の哀れを悟る今宵、
窓にさしこむ星の光、
やせし憂ひの琴を渡る。
まぼろし
おぼろに映るものゝかげ、
うれしと見れば悲しげに、
只だかきくるゝ
いたく乱るゝ黒髪に、
嘗てはかゝる夢なれど、
今はたいかに||
あゝカナ/\や鳴く虫に、
静か心もあたふたと、
綾目うすれて西さがる。
春
春は来にけり、きさらぎの、
風かぐはしく吹き過ぎて、
春の弾く音に、春の歌、
心くまなくうるほひぬ。
また喜びは
愛なる
うつら/\の夢枕、
かつぐ貌の花衣。
昼は静けき
心の
夜はよもすがら胸のうへ、
あえかの夢を吹きおくる。
朝
朝なり、やがて君と吾れ、
二つにさかる悲しさよ。
冷たき鐘のゆさぶりに、
心の淵のからさわぎ。
人のこの世にめでたきは、
只だ夫れ春よ、愛なれど。
涙ににじむ心中の、
辛らきなごりにかへがたし。
望郷
落日々々············、
独りたゝづむ名知れぬ浜辺、||
悲し海原生れの故郷。
翼なき身の只だ茫然と、
入日うすれて、悲哀のしらべ、
海のかなたへかすめて去りぬ。
かくて幾夜を故国の夢に、
こがる心は、そこゐも知れぬ、
暗路たどりて闇夜に沈む。
小曲
春の日の空はみどりに、
地は花に匂へる時を。
あたゝかき思ひすゞろぐ。
やはらかき耳かたむけば、
吾はきく、ああ吾が胸に、
滴りを||かすけき声を。
海のさち
なだれの夕日をまともに浴びて、
椰子の
入江の汀にならべもたてし、
島人どもが一日の獲物。
阿古屋、真珠の
はたまた珊瑚の宝をかさね、
海にも山にもとこめづらしき。
宝の
やさしき妻子と手に手をとりて、
なつかし南の調べを唄ひ、
各々別れて
北半島
力なければ、埋もれて、朽ち果つべしと、
かねて知り、
代々の
民族の、心にもるは闇の色。
生きんとすれば、物うげな
やからもの||
愛の
やからにぞ、祖先をほこる道ありや。
天は天とし輝きぬ、さは言へ人の、
地の上、何んとてしかく

秋
今日もまた吾れ暮れゆく。
夕まぐれ、空より落つる、
その
冷やけき
しく/\と泣き入る憂ひ。
緑葉の
今こゝに歌ふ得べきや。
たゞ無言||風吹きすぐ。
口笛
物の哀れは
いとしめやかな窓のうち、
光も暮れて朦朧と、
つれなき人のたゝずまひ。
無言の吾れと吾前を、
別れの手振りかすれては、
うつら/\の口笛に、
脈うつ胸のどんはたり。
とん/\たらりその胸の
曇れる中を笛の譜を、
綾をみだしてゆほびかに、
流れて
あゝ西さがる
せめては君が笛の譜を、
物
喉ふさぐ迄また
片葉貝
吾がかなしみは灰色の、
貝にもりたる
磯の潮にたゆたひて、
真砂にくぼむあなうらの、
古き
すべてを観ず哀愁の、
心も千々に味ひぬ。
もとよりさけし片葉貝、
はぐれて縁のうすければ、
砂にうもれて、うたかたの、
世をこそ遂のさだめなり。
哀音
||故渡久地政佐君を悼みて
奥津城の闇をもりたる、
その底に君ねむる時、
あやなくも
年若かき愁ひをおびし、
臨終のほそき泣き声||
君ならで誰か知るべき。
のこりたる吾等友がら、
明闇の
なつかしき君が声する、
その方へ
夜
物
死に似たる
たゆみなき時計の刻み、
あわれ、その闇の滴り。
かくて世も過ぎゆくものか、||
胸のぬち心の海は、
日輪のかゞなふ
薄命の青き
かすれゆく光を見れば、
寂滅や今か||吾が身も、
うつぶせぬ、冷たきねやに。
影
阿古屋の玉をとき流し、
輝きわたる心には、
色さま/″\の夢の華。
うつして咲きぬ、艶たちぬ。
さはさりながら吾が秋の、
坂のぼりゆく
影うすれゆき、色
玉の光も
白明
罪も汚れも一
花みだれ咲く森の奥、
只だ吹上の水の
ひたりて更にときながせ。
悲哀の
物の哀れを泣くなくは
あだしこの世の
すべてを捨つによしはなし。
枕重ねて
心こめたる
恋しき森の末なれば。
漁夫
夕日さす
追風に浪にゆさぶり、
南国の浜の静けさ。
白き帆のたわむ
あかがねの
投げかわす魚族のあまた||
或はまた
熱帯の
つくしたる絵巻の模様。
日も暮れて江の底にごり、
物のかげ朧ろにさすや、
椰子茂げる漁村のかひま、
人ふたり
空さむき冬の窓ごし、
ものゝ音も絶えて久々。
その中を若かき愁ひの
人ふたり添ひつ別れつ||
疲れ倦み
吾れは今、うするる影に、
戸をしめて胸をいだきぬ。
森
夕暮れを森をいそぎぬ、
吾れ独り、あゝ吾れひとり、
物も得云はぬ唇に、
色おのづから憂愁の
無言の吾れを語るなり。
実に若かき身は熱帯の
花の姿か、色に出て、
色に現はれ、
からみてよるゝ「運命」の
それにも似たり、哀れ淋しく。
踏み分け入りし森の奥、
筋目もわかぬ
足の労れのいやますに、
住みゆき
尚ほも見えねど、吾は進ぬ。
海
海のかなたへ、たへ/″\に、
ひろがりわたる浪の調べ、
人間道のなりわひを、
あざけり笑ふ浪の調べ。
星
椰子の葉末に燃えあがり、
星の
知らずば吾れと
傾ぶく迄もきくが嬉しき。