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秋の一夕

末吉安持




あゝつひの夕は来りぬ、

天昏てんこん地昏ちこんにさはなる

不浄ふじやうはもこゝに亡ぶか、

洗礼女あらはれめ||河原かはらあし

法涙の露無量光、

新らしき生命いのちの慈相||


法会ほうゑの跡さびしき、

天台の寺院の堂に、

いからしく波うつ霧や、

仏龕ぶつがんの虫ばむ音は、

悲しとも、これも自然が

のりの座へ辿る足音あのとぞ、

きけあしのさなす小琴に、

霊のうた『血汐は白し

血は白し、こや敬虔うやまひ

古瓶ふるがめの封を破らず

ときをまち考えして

いまぞいま『自然』にひたす、


白き血にうつ大天おほあめ

白き血をへや大地おほつち

ありとある孤独こどくのものは

静寂の法に帰依きえして

もだしつゝ白き血め』と、

きくからに身も溶けごゝち。


見かへれば喬木おほきのしげみ

天台の寺院はやみ||

うなだれて物思ものおもひ立てる

おのが身も小河も葦も

大法の一切滅に

あゝなべて見えざる光輝かゞやき||






底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会

   1991(平成3)年6月6日第1刷

入力:坂本真一

校正:フクポー

2018年8月28日作成

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