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焔の后

末吉安持




気も遠く世も消え/\や

丑三つの森の奥の

白檀びやくたんほのにくゆり

木薩地こさぢしづき頃ほひ。

魑魅すだまが気夢にふれて

かへりしわれかの心地。

皐月闇さつきやみ霊気ばしる

夜半の戸にぬかを垂れて

あゝ堪へ難き胸の狂火くるひゞ

雛よばふ焼野の雉子の


闇睨む眼か きらに

燃え飛ぶ野火の遠火の

青火魂あおひだま||あなやの刹那。

魄霊なほしびゆらに揺ぎつ

讃歌さんか咽喉のみどをあふれて

狂ひ心地、小手招き、

いと深き闇のをちに

認め得し小さきほのほきさい

五十年いそぢのわが歌の世を

上下かみしもの永劫に

うるはしくも霊妙いみじく。

不滅の光明ひかりの宮の

常虹とこにじ御座みくら

われ生命いのちの王者が

いつかれむほのほのきさい

くわ天衣てんね左手ゆんで

着代きかへをすゝむるじやう素振そぶりよ。


この時白隼しらはやとびて

あめの世に拍手はで打つもす

くつがへれ今のこの世

我こそは理想おもひの宮に

ひとり笑む王者なるぞ。

焔そは燃ゆるもの

身のあぶらしぼるものか。

あゝ好し、きさいまゐる。

焼けても人世じんせの外に活くべし。






底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会

   1991(平成3)年6月6日第1刷

※表題は底本では、「ほのほきさい」となっています。

入力:坂本真一

校正:フクポー

2018年3月26日作成

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