たとふれば戦ひ果てぬ、
日は暮れて
二時を経ぬ
なまぐさき
荒野の
中に
双の眼を
弾丸に射られて
なほ黒き
呻吟をしのび、
よこたはる
負傷の兵の
勇しきわかき心に、
秘めつゝむ
苦痛遂に
鈍色の
寂寞の
気を
吸ふがごと嗚呼われこゝに。
くらがりの冷えたる
室に
ひとり居ておもひ沈めば、
空想は
蠑螺の
殻の
底つ
闇たどるがごとく、
鬱憂ははた
南蛮の
夜深き
荒磯の上に
鋭き
銛を
腮にうけて
横はる
粗膚鮫の
断末魔||濁りゆく
眼に
無辺なる闇を見るごと。
愛消えし
人の心は
霜の夜の
渚の
泥に
まみれたる
寄居蟹の
殻の
冷やかに
凍れたるごとし、
土色にはた
青銅の
巨鐘の
銹のやうなる
寂寞の
五百重のなかに
一瞬も千とせのおもひ、
あゝかゝる日の
凶時に
人は死に、花は
萎れめ。
●表記について
- このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
- 「くの字点」をのぞくJIS X 0213にある文字は、画像化して埋め込みました。