夜はくだつ十一時、
霜さむく、
圧しくる
闇の気の
凍に、
舞ひ
疲れては
黄塵も
しくしくと泣き
湿り、
侘寝すらし。
色褪めし
達摩像、
はた古りし
徳利のやうに、つくねんと、
屑本のちりばふ
中に
頸ほそう
客を
待つ
男、
女煤けたる
帆木綿に
一品と
文字も
寂しく、
灯は
曇り、
皿道具鳴る
中へ、つと、
忍びよる黒き物
||巡査なりき。
火の
番の
拍子木の
後方より『
鍋焼うどん』、また
来るは、
よきこゑの『
恋の
辻占』
鮭さげて
小走りの
町の
若衆。
炭俵、はた
薪か、
河岸遠く、をりから
物の
落つる
音、
犬の
声、さはれ
五分時、
濁水は
音もなく
西へ流る。
●表記について
- このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
- 「くの字点」をのぞくJIS X 0213にある文字は、画像化して埋め込みました。