戻る

拾った詩

||或る人に告ぐる||

今野大力




なぜか知ら

そぞろ歩みに誘われて

私もお祭りに加わります

誰ひとり街はずれのお宮へなぞゆくものですか

みんなはこうして

涼しい夏の夜の風を浴びながら

あてどもなく華やかな灯の下を

さまよいます。

    *

師団道路なんて

何て無意味な名前でしょう

面白可笑おかしな人にもあい

一寸ちょっと横丁へよれてごらん

音もない光りもない

夜半やはんの神秘がねています。

未来派ならば

何と表現するでしょう

女、首、しな、ひとみ、赤坊

男、香水、めがね、煙草

花電気、太鼓、かね、笛

笑いましょうか

唄いましょうか

泣きましょうか

    *

祭りはまちに燃えるのろしです

(ママ)高く、一年に一度の

天にまけよかし見よかしと

祈る一つの灯です。

    *

あららっこれはしまった

あれが誰ですあの人でなくって

そうだねこれはしまった

さよならやあおや

何の真似まねでもせなけりゃならぬ

私の顔が疲れたろう

まちを歩けばこんなにも

おぼえた人がいるのです

そうして忘れているのです

    *

やぶ屋敷、活動人形、軽業師

見せ物からくり

ごっちゃごちゃ

まぜてかえてゆきましょうか

すりが鋏を持っていましょう

    *

灯のまちの尊さは

どんな処にあるか知ら

屹度きっとお宮にあるんだろう

天の岩戸の踊りなら

神様さえもそろそろと

扉を開いて来ましょうよ

    *

忘れていましたお祭りは

商人が金をもうける手段です






底本:「今野大力作品集」新日本出版社

   1995(平成7)年6月30日初版

初出:「旭川新聞」

   1923(大正12)年8月5日

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年9月1日作成

青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。





●表記について



●図書カード