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玉盃の曲

漢那浪笛




ふくよかの顔面おもざしあげて

紅潮の浜にさすごと

はなやかの笑みひろごりて

まなざしの光すゞしく


わが胸の奥には深く

よろこびの影こそ跳れ

わが耳にかなづる歌は

鶯の啼く音をこめね


あたたかき玉のかひな

瑠璃色の酒瓶もたいたたけば

白百合の花よりすべる

露のごと湧くや甘酒うまざけ


玉盃のふちにあふれて

白銀や黄金の花の

そこゐには咲きそむものと

口ごもる若き恋人


手をのべて盃をうくれば

わが心あめ永久春とこはる

美しき追憶おもひでばかり

いとかけぬ心をゆする


新たなる生命いのちの花の

色馨る唇よせて

玉盃のふちにあつれば

われならぬ影こそうつ


なめらかなうまらの酒を

喉笛のどぶえにそとすべらせば

血の浪の生々いき/\ゆらぎ

天地に吾が脈かよふ






底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会

   1991(平成3)年6月6日第1刷

初出:「芸苑 第二巻第二号」

   1907(明治40)年2月

※初出時の表題は「玉盃曲」の一篇です。

入力:坂本真一

校正:良本典代

2016年6月10日作成

青空文庫作成ファイル:

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