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砂上の低唱

漢那浪笛




満つと見しこの天地あまつちは足ずありぬ心を

いづちやるも空虚うゐのみ

海のしめる暁を

今日片時の浜下り

磯の霞に酔ひしれて

哀れ吾が世の夢に泣く


浪路逢かた見渡たして

満潮時を恨み泣く

千鳥の声に胸冷えて

哀れ吾が世の夢に泣く


花葉かざれる海の底

そや湧きかへる黒潮は

憂しや吾が身の宿世にて

哀れ吾が世の夢に泣く


足跡しげき砂の上

深かき想ひに眼を閉ちて

世の運命を思へば

哀れ吾が世の夢に泣く


悲哀の盃を受けし身は

日に日に琴柱折りふして

只だ空鳴りに物狂ひ

哀れ吾が世の夢に泣く


さらばとうたの神を追ひ

花園の影に身をよせて

詩の車を手に繰るも

哀れ吾が世の夢に泣く






底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会

   1991(平成3)年6月6日第1刷

初出:「琉球新報」

   1908(明治41)年10月12日

入力:坂本真一

校正:良本典代

2016年6月10日作成

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