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わなゝき

末吉安持




瞬時またゝきの夢の装飾よそひも、

しかすがにあやゆれば、

紫の絹のとばり

永遠えいえん生命いのちありと、

平和やわらぎりいつきて、

心ある春の雨は、

やわらにおとなくそゝいで、

しのびに葉末を流れぬるか。


またたけばまた夜明よあけて、

瞬たけばまた日暮れぬ、

直黄ひたきもゆる夕雲を、

きらのに見かへりて、

白無垢しらむくの乱れ羽に

血をべる、小鴒こばと一羽、

枝ぶり怪しきかしは

木ぐれに落ちたる様はいかに。


瞬たけばまた夜明けて、

四辺あたりまた暗き千里せんり

かゝるときや古琴ふるごとも、

虫ばみ折れて落つらむ、

若葉の雨も今宵は、

蕭々せう/″\のわび立てゝ、

あな悲し白木蓮びやくもくれん

ほろゝのこぼれぞ胸にひゞく。


点滴あまだれ拍子べうしさびしう、

刻々よるをきざみて、

短檠たんけいのほびもせぬ、

小香炉こがうろの灰も冷えぬ。

晩春ばんしゆんうなじおもう、

古甕ふるがめ神酒みきみて、

ひじまくら思ひ入れば

あゝ胸柱むなばしらせちにわなゝく。


わなゝきはあわたゞしく、

小暗きむろをはしりて、

闇に消えぬ、一しきり

木蓮の散るにつれ、

古甕ふるがめはげしく裂けて、

あら御酒みきの泡もとめす、

大いなる、わなゝきぞ、

天地てんちのかぎりにひろごりぬる。


折りから真闇のをちに、

生命いのち氷鋏ひばさみ

わなゝく大気にひゞきて、

終焉をはりの影を依々いゝたる、

あゝつか装飾よそひに、

酔ひしれず、霊のまへに、

涙のこゝろさぐらずば、

わがたまいかにか迷ひけらし。






底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会

   1991(平成3)年6月6日第1刷

入力:坂本真一

校正:フクポー

2019年2月22日作成

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