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哀詩数篇

漢那浪笛




くらがり


なすによしなき哀れさよ、

早や日数経て、今日けうの日も

くらがりわたる物おもひ。


水や空なる波の上に、

淋しくかゝる綾雲あやぐもは、

やがて消ゆべき希望のぞみかや。


その希望もて吾が道は、

深海ふかみの底の青貝の、

螺線の中のゆきもどり。


物の幾度(不明)(不明)葉に、

灰色なせる涙もて、

悲哀の文字を印せしも、


暗き深みのみなぞこの、

声も言葉もかよわねば、

昨日も今日も、かくて暮れゆく。



暮の鐘


灰色の雲かさなりて、

黄昏たそがれは死人のけわひ。

しく/\と泣きいる風は、

谷隈たにくまの底をはひ出で、

黄ばみたる木立はらひぬ。


冷やかな自然よ君と、

今日も又、かくて暮れゆく、

哀音の鐘の響きは、

痛みたる君が胸より、

るる、苦患くげんの声か。


うなだるる眼ひらきて

黄昏の空を仰げば

奥津城の岩のほとりの、

小山なすかばねの上に、

胸もどき声をきゝしる。






底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会

   1991(平成3)年6月6日第1刷

初出:くらがり「琉球新報」

   1909(明治42)年5月6日

   暮の鐘「琉球新報」

   1909(明治42)年5月6日

入力:坂本真一

校正:良本典代

2017年6月25日作成

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