本篇もまた、平次の独身もの。許嫁の美しくて純情なお静が平次のために喜んで死地に赴きます。
「やい、八」
「何です、親分」
「ちょいと顔を貸しな」
「へ、へ、へッ、こんな
「気取るなよ、どうせ身代りの
捕物の名人と
松は過ぎましたが、妙に生暖かいせいか、まだ江戸の街にも
「へエ||、どこへ飛んで行きゃアいいんで||」
「今の話を聞いたろう、あの客が長々と話し込んだ||」
「いいえ」
「聞かねえ?」
「人の話なんか聞きゃしませんよ、そんなさもしい八さんじゃねえ」
「いい心掛けだ、||と言いてえが、実は居睡りをしていたんだろう」
「まアそんなところで、||何しろ日向は
「
「お手数でもそう願いましょうか」
「黙って聞けよ」
「へエ||」
平次の態度には
「今ここへ見えたのは、
「悪い虫でも付いているんでしょう、どうせ当節の娘だ」
「そんな話じゃねえ。聞けば近頃、神田から日本橋へかけて、花嫁がチョイチョイ消えてなくなるそうだな」
「それなら聞きましたよ。祝言の晩に
「ところが、八百徳の主人の話では、消えた花嫁が三人もあるんだそうだよ」
「妙に気が揃ったものですねえ」
「そんな
「そう言えばそうかも知れませんね」
「どこの家でも、娘に男があって逃げたと思い込んでいるから、世間体を
「なるほどね」
「そこで
「そのお仙とかいう娘に、虫が付いてるかどうか嗅ぎ出して来いというんでしょう」
「そんな
「なるほど、こいつは、嫌な役目だ」
「何だと、八」
「智恵も銭も
「
「これでも独り者ですぜ、親分」
「独り者だから、そんな場所によく眼が届くんだ、役不足なんか言っちゃならねえ」
「へッ、助からねえな」
ガラッ八は文句を言いながらも、頭の中では、その晩の冒険に対する、いろいろの計画をめぐらしておりました。
日本橋の十軒店から神田の末広町まで、自動車を飛ばせば十五分くらいで行ってしまいますが、昔の花嫁の行列はそんな手軽なわけには行きません。
町内の
闇の中から不意に飛んで来たのは、一本の棒、これが花嫁の乗った真ん中の駕籠の、先棒の股の間へサッと入りました。
「あッ、何をしやがる」
と言った時は、もう見事につんのめって、弾みの付いた駕籠は、往来の真ん中へドタリと落されました。
「それ出た」
それくらいのことは心得た後棒の若い者、
なにぶん宵闇の中に起った不意の出来事で、それに、曲者は恐ろしい手練、後棒の若い衆は思わず跳ね飛ばされて尻餅をつくと、その間に飛付いた、第二、第三の男、物をも言わずに花嫁の駕籠を引っ
「野郎、待ちやがれ」
先棒は
「何をしやがる」
息杖を振りかぶって、八方から花嫁の駕籠を追い駆けました。幸い路地は三尺の抜け裏で、駕籠は容易に通りません。花嫁の駕籠は少し斜めに、その口を塞いだまま放り出されたところへ、十人の威勢のいいのが、十本の息杖を振りかぶって、すかさず追いすがったのでした。
別に町駕籠を仕立てて、花嫁の行列のすぐ後に続いたガラッ八は、この騒ぎを見ると転がるように降り立ちました。
「とうとう出やがったか、逃すな」
それでも商売柄、一番先に路地の口に飛付きました。が、花嫁の駕籠が入口を塞いで急には
「えッ、面倒臭え」
駕籠を飛越して路地の闇に入ると、鼻の先に通せん坊をしたのは恐ろしく
「やい、ここを開けろ」
押しても叩いてもビクともすることではありません。
そのうちに、四挺の駕籠から飛降りた仲人夫婦やら付添いの者、これは一番先に花嫁の安否ということが頭へ響きます。
飛付くように駕籠の
「お仙さん、驚いたろう」
と見ると、中は空っぽ。
「あッ」
八百峰の近くまでたどり着いて、いくらか心持に
「親分、何とも申し訳がねえ、俺は腹でも切りてえ」
すっかり恐れ入って報告する八を
「いや、その様子では俺が行っても
平次はそんな事を言っております。
時を移さず、鼠屋横町の抜け裏から、八百峰の立ち騒ぐ人達の様子、驚き呆れる十軒店の八百徳まで廻ってみましたが、手掛りらしいものは一つもありません。
「六尺棒を若い衆の股の間に投げ込んだ手際じゃ、ザラの泥棒や人さらいじゃねえ||」という
その頃は、諸大名の門番や、見附の番人は言うに及ばず、渡り
花嫁は評判の堅い娘で、八百峰の総領とは
それに、盗まれた花嫁は、暮から勘定して四人目、手口はそれぞれ違いますが、とにかく、余程深い企みのあることは、鼻の良い平次には、判りすぎるほど判ります。
それから三日目。
「親分、聞きなすったか」
朝のうちから、ガラッ八が
「何だ、八、相変らず騒々しい」
「
「何?」
「
「フーム」
「これで五分と五分だ、石原のでさえ馬鹿にされたんだ、八五郎ばかりが失策ったんじゃねえ||、
「馬鹿野郎ッ」
「へッ」
「石原の
「へエ||」
「俺はそんな心掛けの人間は大嫌いなんだ。こっちはこっち、石原の兄哥は石原の兄哥だ。人の
「へエ||」
「手前は人間はガラガラして、まことに出来のよくねえ野郎だが、悪気のないところだけが
「へエ||」
平次の怒りは、いつになく
「さア、出て行きゃアがれ、俺はそんな根性の曲った野郎を見ていたかアねえ」
「親分、なるほど、そう言われてみると、あっしが悪かった、勘弁しておくんなさいまし」
「ならねえ」
「そう言わずに、親分」
「
「············」
「まごまごしやがると、向う
あまりの剣幕に驚いたか、ガラッ八は二つ三つお辞儀をすると、
日頃温和な平次が、こんなに怒るのは、何か仔細のあることでしょう。人のいいガラッ八は、押して聞き返す勇気もなく、妙に
間もなく、第六人目の花嫁が盗まれました。
家を出て
その上、何ということでしょう。この晩は双方から頼み込まれて、特に銭形の平次が乗り出し、宵から嫁の姿を見張って
嫁のお辰は、里方の染物屋にいるうちに替えられたに相違ありませんが、それが、どこで、どうして入れ替ったか、さすがの平次にも、全く見当は付きません。
お辰の代りに、花嫁に仕立てられたのは、どこから来たともなく、二三年この方、神田あたりを
「お前はどこから||誰が連れて来たんだ、言わないか」
「言わないよ」
「言わなきゃア
寄ってたかって責めると、
「黙っていさえすれば、伊勢直の若旦那のお嫁にするって言われたんだ、言うもんか」
この調子では全く手が付けられません。
もっとも、評判娘のお辰とは似も付かぬ
それよりも重大な原因は、近頃の物騒な
なおもお六を
解ったことと言うと、お六の着ていた紋付や帯は、お辰の着ていた品と、色も柄もそっくりそのままというほどよく似ておりますが、実は、今までに
「銭形の親分、御覧の通りの始末だ。誰の
伊勢直の主人はゴクリと
「面目次第もございません、平次の男に賭けて、キッと探し出してお目にかけます。三日と言いたいが、せめて後五日、この月中には何とかいたしましょう」
言葉は柔かいが、平次の胸の中には、
「おっ
「あら親分」
お静は平次を迎えてイソイソと立ち上がりました。平次の
この時、お静は、平次とは九つ違いの十八、厄前に祝言の盃だけでも済ませるつもりで、仲人まで立てておりましたが、お上の御用の多い平次は、せめて
美しさも賢さも申分なく恵まれたお静は、平次の顔を見ると、ポッと顔を
「まア、親分、よくいらっしゃいました」
次の間から母親が出て参ります。
「すっかり御無沙汰をしちゃった。お変りもないようで、こんな結構なことはねえ。ところで今日は少しお願いがあって来たんだが||、ちょうどいい
「まアまア、御用の多い身体を気の毒な。そう言って使いでも下されば、こっちから伺ったのに」
「とんでもねえ、年寄りを歩かせるようないい話じゃないんで||、実は」
平次は言いにくそうに頬を
「············」
「これは仲人から言って貰うのが順当だが、それでは俺の心持が済まねえ」
「············」
「ざっくばらんに言ってしまえば、一日延しにしていた
「えッ、早いに越したことはありませんよ。私もお静も、親分がその気になって下さると、どんなに嬉しいかしれはしないが||」
母親は真っ紅になって差し
「この月といっても、あと三日しかないから、支度がとても間に合わないよ、親分」
「おっ
「親分の男が?」
「そう言っただけでは解るまいが、||知っての通り、近頃あっちこっちで花嫁が盗まれる。それも、神田一円と日本橋の数ヶ町かけての祝言ばかりを狙って、暮から六人も行方知れずだ。神隠しに逢うのか
「そうだってね、親分」
「笹野様もことのほか御心配で、平次何とかしろとおっしゃるが、こればかりは雲を
「············」
「ガラッ八も石原の
「············」
「世上の人が後ろ指をさしているようで、どうにも外へ出る勢いもねえ。お願いというのはここだよ、おっ
「············」
「この節はすっかり怯えてしまって、この
「············」
「俺の眼の前で花嫁を掏り替えた相手だ。平次が嫁を貰うといったら、万に一つも黙って見ているはずはねえ。お静坊に、幾度も危ない思いをさせちゃア気の毒だが、一番花嫁になって
折入っての頼み、男の額には冷汗さえ浮べておりますが、あまりの事に、母親は返事のしようもありません。しばらく
「親分、そんな事でお役に立つなら、どうぞ私を使って下さい」
祝言をしてとは言いませんが、お静は顔を上げて、平次よりはむしろ、母親の心持を測り兼ねた様子でこう言いました。
「お静、何を言うのだえ、お前」
「いえ、おっ
母親の膝に手を置いたお静、それを揺すぶりかげんに、少し甘える調子でせがんでおります。平次はこの
その翌々日、平次はお静と祝言の盃をあげることになりました。仲人は笹野新三郎の用人、
お静の家から平次の家までは、ほんの二三町、
ガラッ八が居たら、さぞ
新妻を
どうせ
二た間
紋付姿の平次も立派でしたが、それにも増して、お静の花嫁姿は鮮やかでした。このまま、お開きとなれば、何もかも無事に納まります。六人の花嫁を盗んだ
やがて花嫁は次の間へ下がりました。怪し気ながら、紋付を脱いで、色直しということになります。盃は
「ちょいと」
髪結のお
「嫁さんはどうしたんだい」
「先ほどから、お見えになりません」
「何?」
一座は騒然として立ち上がりました。頭から被った風呂敷でもかなぐり捨てたように、乱酔が一遍にさめてしまったのです。
「色直しの着付けを済まして、御不浄へいらしったようですが、それっきり見えません」
「とうとうやりやがったな」

平次の活動は、本当に火の出るようでした。六人の花嫁を救い出すために、あらゆる物を賭けてしまった平次は、このうえ失策を重ねるようなことがあれば、死んでも申し訳が立たないことになるのです。
世上の
平次は今までも決して遊んでいたわけではありませんが、もう一度必死のスタートを切って、嫁入りと関係のある、あらゆる商売を調べてみました。第一番に、神田日本橋の呉服屋、越後屋、白木屋をはじめ、筋の立ったところを全部当ってみましたが、江戸中に毎日、幾つあるか判らない祝言のうちから、神田日本橋のを
次は
しかし、七人の花嫁
念のため、一度は諦めた女乞食のお六を、その巣にしている明神様の裏手の、建て捨てた物置小屋へ見に行きましたが何としたことでしょう、これは、見るも
「しまったッ、こんな事なら、もう少し口を利かせるんだった」
と言ったところで追い付きません。
今度ばかりは銭形の平次ほどの者も、全く持て余してしまいました。
下町中の質屋という質屋、
こんな空しい努力を続けているうち、たった一つ気の付いたことは、石原の利助と、ガラッ八が、平次とほぼ同じ調べ口で、あっちこっちを探し廻っているということだけでした。
平次は、お静にいろいろのことを言い含めておいたはずですが、不思議なことに、
お静の襟や帯揚の中には、格子や雨戸の
そればかりでなく、お静の帯の間や、懐の中には小さい竹笛が幾つか潜めてあるはずです。その笛を引っ切りなしに吹いてくれさえすれば、平次の子分達が聞込まないまでも、近所の人が変に思って、井戸端の噂ぐらいに上らないはずはありません。
平次は夜となく昼となく、神田から日本橋を、へとへとになるまで
しかし何もかも無駄でした。もしかしたら、六人の花嫁と一緒に、美しいお静の死体は、今日にも大川に浮くかも知れない||といった恐ろしい幻想に、平次は休むことも眠ることも出来ない有様になっておりました。
「親分、御心配ですね」
振返ってみると、髪結のお鶴、
「あ、お鶴さんか」
平次は夢見るように立止まりました。
「お静さんの行方は、少しも判りませんか」
毛筋を
「困ったよ、お鶴さん、お前さんにも心当りはないだろうか」
「ホ、ホ、ホ、銭形の親分がそんな事をおっしゃっちゃ困るじゃありませんか、でも、今度ばかりは、本当にお気の毒ねえ」
親切とも、皮肉とも聞える言葉を空耳に、平次はお鶴に
「ちょいと寄っていらっしゃいな? お茶でも
「有難う、少し休まして貰おうか」
断るかと思った平次は、お鶴に誘われるまま、細かい格子戸を潜りました。
中は女やもめの住みそうな、磨き抜かれた調度、二三人の若い
「
汲んで出す茶、一と口飲んで、長火鉢の猫板の上に置いた平次。
「あの娘さん達は、夜もここへ泊んなさるのかね」
「いえ、用事のない時は、日が暮れると銘々の家へ帰しますよ」
「住込みもあるんだろう」
「私はこんな性分で、人様の娘を預かることなどは、面倒臭くて出来ませんから、皆んな帰って貰いますよ」
「すると夜分はお鶴さん一人だね」
「え」
「ちょうどいい
「あれ、冗談ばかり、そんな事を言うと罪ですよ、これでも女なんですから」
「それはそれとして、いい加減にして、
「え? 何をおっしゃるんです」
お鶴は思わず
「七人の花嫁を出して貰おうか」
平次の手はサッと延びて、お鶴の左の手首をピタリと
「何をするんだえ、いやらしい、
と言うのを引寄せて、グイと掴んだ女の腕をしごくと、二の腕に赤々と
「
「何をッ」
どこから取出したか、お鶴の手には、キラリと
「お前が怪しいことは、早くから気が付いたが、証拠がなくて踏込まずにいたんだ。花嫁が七人も続けざまに消えてなくなるのに、それを手掛けた髪結を疑わずにいるほどの平次と思うか」
言う内にも、懐から蛇のように引出した捕縄、見る見るお鶴の身体は高手小手に縛り上げられてしまいました。
「何をするんだ、私は女髪結のお鶴、下町でも知らない者はない。何を証拠に、銭形とも言われる者が縄を打つんだ」
畳を
「黙れッ、あの壁を見ろ、ところどころに爪で引っ掻いた蛇の目の印があるだろう、あれはお静に言い付けた合図の
「知らない知らない、たって探したかったら、裏は神田川だ、水の底でも覗いてみるがいい」
「七人の命には替えられない、言わなきゃア、平次の宗旨にはないことだが、お前の身体を五分試しだ。これでもか」
平次もさすがに一生懸命です、額にふり注ぐ冷汗を片手なぐりに拭き上げると、女の手から打落した匕首を取って、その白々とした
「冷たくて、とんだいい心持だよ、さア一と思いに突いておくれ、||お前に殺されれば本望だ。何を隠そう、私は長い間、お前に
それは恐らく本音でしょう。平次を斜め下から見上げる悪女の眼には、不思議な情火が、メラメラと燃えさかるのです。
「えッ、しぶとい女だ、言えッ、七人の花嫁をどこへやった」
思わずゾッとしながらも、平次は匕首の背を返して、女の頬を叩きます。
「駄目だよ、そんな事を言っているうちに、七匹の雌は一と
「何? 一と纏めにして江戸から送り出す?」
平次はサッと次の間の
「石原の親分、そういったようなわけだ、面目次第もないが、当分ここへ置いておくんなさい」
ガラッ八は
「············」
利助は黙って腕を
「ともかく、
道化たうちにも妙に真剣なガラッ八の調子を見ると、利助は何となく
「まア、いいやな、その内に何とかなるだろう。しばらくここにブラブラしているがいい」
「有難うございます、親分」
二人がそんな話をしているところへ、表から利助の子分が二人連れで帰って来ました。
「親分、変な噂を聞き込みましたよ」
「何だ?」
「両国の水よけに、
「えッ」
「そればかりじゃありません。この二三日、
「そいつは耳寄りな話だ、行ってみるか、八兄イ」
利助は立ち上がりました。
「
「お静さんを始め七人の花嫁は、どこか河岸っぷちの家にでも押し込められているに
それから間もなく、利助とガラッ八は、子分の者に
日はもうトップリ暮れて、
ちょうどその時。
銭形の平次も一
七人の美女を一と纏めにして、人目に付かぬように上方へ持って行くには、船より外に
橋の上手、この時候には滅多に見掛けない屋根船のもやっているのを、遠くの方から二三度
見ると目ざす屋根船は
「待て待て、その船に不審がある」
宵闇の中から声を掛けた平次、軽舸をピタリと付けさせると、
「何だ、いきなり人の船に入って来やがって」
中へ飛込もうとすると、
「誰だ、騒々しい」
胴の間から飛出したのは、一人、二人、三人、いずれも荒くれた大男、そのうちの一人は二本差のようです。
「御用だぞ、神妙にしろ」
「何をッ」
「七人の花嫁を
「何を、それッ、相手は一人だ、斬ってしまえッ」
三人の男は、切っ先を揃えて、平次を三方から取り囲みました。平次の武器というのは十手が一挺。
真っ先に飛込んで来た脇差を引っ外して、十手を左に持換えると、右が懐に入って、取出した青銭。
「エッ」
真っ先の一人は、左の眼を打たれて引退きました。
しかし相手はまだ二人、
平次は十手と青銭と
大川の上から下へ、軽舸を漕がせていた利助とガラッ八は、この時
「それッ」
と屋形船へ舳先を叩き付けると、利助、ガラッ八を始め、二人の子分、
「銭形の
「親分、八五郎が参りました」
「御用ッ」
「御用ッ」
船の上には、一としきり乱闘が続きましたが、平次と利助の捕物上手な駆引と、一つは多勢の力で、大した過ちもなく、間もなく一味五人を、
中仕切を開けて入ると、胴の間には、縛られた七人の花嫁、踏み砕かれた花束のように一と
「あッ、親分」
その中でも一番美しくて、一番気の確かなお静は、平次の姿を見ると、悪夢から覚めたように飛起きて、駆寄りました。
*
七人の花嫁を誘拐した髪結のお鶴は、丹頂のお鶴という有名な女賊で、額から眼へかけての赤痣は、人目を忍ぶために絵の具で描かせたものでした。
しかし痣はなくとも恐ろしい醜婦で、三十過ぎるまで男というものに眼を掛けられたこともなく、もとより縁談を持込む物好きもなかったので、
それを助けたのは、
ガラッ八を叱り飛ばして、利助のところへやった平次の真意は、言うまでもなく、この先輩と和解するためで、平次の