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南からの種子

竹内浩三




南から帰った兵隊が

おれたちの班に入ってきた

マラリヤがなおるまでいるのだそうな

大切にもってきたのであろう

小さい木綿袋に

見たこともない色んな木の種子

おれたちは暖炉に集って

その種子を手にして説明をまった


これがマンゴウの種子

くすのきのような大木に

まっ赤な大きな実がなるという

これがドリアンの種子

ああこのうまさといったら

気も狂わんばかりだ

手をふるわし 身もだえさえして

語る南の国の果実

おれたち初年兵は

この石ころみたいな種子をにぎって

消えかかった暖炉のそばで

吹雪をきいている






底本:「竹内浩三全作品集 日本が見えない 全1巻」藤原書店

   2001(平成13)年11月30日初版第1刷発行

   2002(平成14)年8月30日初版第5刷発行

入力:坂本真一

校正:雪森

2014年11月14日作成

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