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竹内浩三




ぼくが 帰るとまもなく

まだ八月に入ったばかりなのに

海はその表情を変えはじめた

白い歯をむき出して

大波小波を ぼくにぶっつける


ぼくは 帰るとすぐに

誰もなぐさめてくれないので

海になぐさめてもらいにやってきた

海はじつにやさしくぼくを抱いてくれた

海へは毎日来ようと思った


秋は 海へまっ先にやってくる

もう秋風なのだ

乾いた砂をふきあげる風だ

ぼくは眼をほそめて海を見ておった

表情を変えた海をばうらめしがっておった






底本:「竹内浩三全作品集 日本が見えない 全1巻」藤原書店

   2001(平成13)年11月30日初版第1刷発行

   2002(平成14)年8月30日初版第5刷発行

入力:坂本真一

校正:雪森

2014年10月13日作成

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