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演習一

竹内浩三




ずぶぬれの機銃分隊であった

ぼくの戦帽は小さすぎてすぐおちそうになった

ぼくだけあごひもをしめておった

きりりと勇ましいであろうと考えた

いくつもいくつも膝まで水のある濠があった

ぼくはそれが気に入って

びちゃびちゃとびこんだ

まわり路までしてとびこみにいった

泥水や雑草を手でかきむしった

内臓がとびちるほどの息づかいであった

白いりんどうの花が

狂気のようにゆれておった


ぼくは草の上を氷河のように匍匐ほふくしておった

白いりんどうの花が

狂気のようにゆれておった

白いりんどうの花に顔を押しつけて

息をひそめて

ぼくは

切に望郷しておった






底本:「竹内浩三全作品集 日本が見えない 全1巻」藤原書店

   2001(平成13)年11月30日初版第1刷発行

   2002(平成14)年8月30日初版第5刷発行

入力:坂本真一

校正:雪森

2014年11月14日作成

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