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鈍走記(草稿)

竹内浩三




1 生まれてきたから、死ぬまで生きてやるのだ。ただそれだけだ。

2 日本語は正確に発音しよう。白ければシロイと。

3 ペリオド、カンマ、クエッションマアク。でも、妥協はいやだ!

4 小さい銅像がちょうちょうとあそんでいる。彼はこの漁業町の先覚者だった。

5 四角形、六角形、そのていたらくをみよ。

6 バクダンをもってあるいていた。生活を分数にしていた。

7 恥をかいて、その上ぬりまでしたら、かがやき出した。

8 私は、機関車の不器用な驀進ぶりが好きだ。

9 もし、軍人がゴウマンでなかったら、自殺する。

10 どんなきゅうくつなところでも、アグラはかける。石の上に三年坐ったやつもいる。

11 みんながみんな勝つことをのぞんだので、負けることが余りに余った。それをみんなひろいあつめたやつがいて、ツウテンジャックの計算のように、プラス・マイナスが逆になった。

12 戦争は悪の豪華版である。

13 戦争しなくとも、建設はできる。

14 飯屋のメニュウに「豚ハム」とある。うさぎの卵を注文してごらんなされ。

15 哲学は、論理の無用であることの証明にやくだつ。

16 女は、バカなやつで、自分と同じ程度の男しか理解できない。しようとしない。

17 今は、詩人の出るマクではない。ただし、マスク・ドラマはそのかぎりにあらず。

18 注訳をしながら生きていたら、注訳すること自身が生活になった。曰く、小説家。

19 批評家に曰く、批評するヒマがあったら、創作してほしい。

20 子供は、注訳なしで、にくいものをにくみ、したいことをする。だから、すきだ。

21 ぼくはずるい男なので、だれからもずるい男だと言われないように、極力気をつかった。

22 ぼくは、おしゃれなので、いつもきたないキモノをきていた。ぼくは、おしゃれなので、床屋がぼくの頭をリーゼントスタイルにしたとき、あわてた。

23 ぼくは、自分とそっくりな奴にあったことがない。もしいたら、決闘をする。

24 親馬鹿チャンリンは、助平な奴である。

25 ベートホベンがつんぼであったと言うことは、音痴がたくさんいることを意味するかしら。

26 ちかごろぼくの涙腺は、カランのやぶけた水道みたいである。ニュース映画を見ても、だだもり。

27 図 人生である。

28 このおれの右手をジャックナイフでなぶりころしにしてやる。おれは、ひいひいとなきわめいて、ネハンに入る。

29 どこへ行ってもにんげんがいて、おれを嗤う。おれは、嗤われるのはいやだけども、にんげんをすきだ。

30 人相学と映画学とは一脈相通じる。

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底本:「竹内浩三全作品集 日本が見えない 全1巻」藤原書店

   2001(平成13)年11月30日初版第1刷発行

   2002(平成14)年8月30日初版第5刷発行

入力:坂本真一

校正:雪森

2014年11月14日作成

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