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夜汽車の中で

竹内浩三




ふみきりのシグナルが一月の雨にぬれて

ボクは上りの終列車を見て

柄もりの水が手につめたく

かなしいような気になって

なきたいような気になって

わびしいような気になって

それでも ためいきも なみだも出ず

ちょうど 風船玉が かなしんだみたい


自分が世界で一番不実な男のような気がし

自分が世界で一番いくじなしのような気がし

それに それがすこしもはずかしいと思えず

とほうにくれて雨足を見たら

いくぶんセンチメンタルになって

涙でもでるだろう

そしたらすこしはたのしいだろうが

そのなみだすら出ず

こまりました

こまりました






底本:「竹内浩三全作品集 日本が見えない 全1巻」藤原書店

   2001(平成13)年11月30日初版第1刷発行

   2002(平成14)年8月30日初版第5刷発行

入力:坂本真一

校正:雪森

2014年11月14日作成

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